時津の公民館のクラスでのことです。
ある生徒さんが、"I baked apple pies for my husband."("baked"は「ベイクト」)と言いました。すると別の生徒さんが「『べいくど』じゃないんですか?だってベイクドチーズケーキって言いますよね?」とたずねました。
これは、おもしろい質問だと思いました。というのは、日本人は規則動詞の後に -ed をつけると過去形になるのはもちろん知っていますが、その過去を表す部分が"[d]という音になるのか、[t]という音になるのかがはっきりわからず、曖昧なままにしていることが多いからです。
基本のルールは、動詞の最後の音が[p][k][s][f][ʃ][tʃ]と濁らない音であれば、英語の音韻の法則によりその後に来る音は必然的に濁らなくなります。従って、
walk + ed = [wˈɔːkt] refresh + ed = [rɪfréʃt]
skip + ed = [skípt] watch + ed = [wάtʃt]
しかし[b][d][g][l][m][n][v]のように濁る音や母音の後に -ed が来ると、濁音の影響で[b][d][g]となります。
smile + ed = [smaild] stay + ed = [steid]
rain + ed = [reind] shave + ed = [ʃéɪvd]
もちろん[t]で終わる動詞は、濁らない音ですが、英語には[tt]という音のつながりがないので、間に母音を入れて[tid]となります。
want + ed = [wάntid]
そこで冒頭の「ベイクドチーズケーキ」の話しに戻りますが、英語では今説明したように、bakeは発音記号で書くと[beik]となります。ですから、過去形は濁らない音で英語で発音すると[beikt]です。ところが、一旦カタカナで表記したものを読むと、とたんに日本語の音のルールに従います。日本語では「ベイクト」とは言いにくいので「べいくど」となるわけです。もともと外来語を外来語のルールに従って「焼き(元々の英語の意味は「焼かれた」ということで過去分詞の"baked"を使ったのですが、カタカナ表記にしたことにより日本語の音の影響で「べいくど」となってしまったという訳です。